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第40話 お金の話

last update Last Updated: 2025-05-31 11:11:04

「軍団長は、それだけフェリシアを買っている。無論、私たちもだ」

 ベネディクトがまっすぐに私を見た。

「遠慮はしなくていいぞ。どうせ軍団長にも儲けが入るんだ。ちゃっかりしてるぜ、あの人」

 クィンタはちょっとわざとらしく手を広げている。

「だから、母上の形見は手放さなくていい。相応の額を初期費用として支払う算段だ。もし足りなければ、私も出す」

「あーあ、これだから名門貴族のお坊ちゃまは。俺は給料以上の金は持っていないんだ。残念だがそこは役に立てねえ」

 ううーん。

 形見を質入れしないで済むのは嬉しい。でも本当にいいのだろうか。

 悩む私を、リリアが励ましてくれた。

「フェリシア先輩。わたしには難しい話はよく分かりませんけど、お金がもらえるならもらっておきましょうよ! それで物語の写本をいっぱい作って、もっと人気を出すんです!」

「……そうね!」

 話が上手く進みすぎだけど、軍団長もベネクィの二人も信用できる人だと思う。

 それに何より、私を厚遇して騙す理由が見当たらない。

 聖女の力が本物だと思い込んで、囲い込むつもりかもしれないけど。

 皇太子や実家の家族に比べるまでもなく、この人たちはとても良くしてくれた。

 曖昧なままの聖女の力くらい利用してくれていい。

 だいたい、聖女の力の本領は魔物を弱体化して浄化するというもの。それから傷を癒やす力。

 であれば、常に魔物との戦いを続けている要塞の兵士たちにこそ必要な力ではないか。

 大いに利用してくれて結構だ。

 むしろ私がもっと頑張って、光の魔力を使いこなせるようにしないと。

 そうと決まれば迷いは消えた。

 帝都では私のBL物語を待っている人がいる。急いで写本を作って、たっぷりと萌えを届けなければ!

「それでは、恐縮ですがよろしくお願いいたします。ご迷惑ばかりかけてしまって、本当にすみません」

「迷惑など何もない。顔を上げてくれ」

「そうだぜ、フェリシアちゃん。後で軍団長から正式に話が行く

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     ペンネームは何がいいだろう。 ちなみに前世のペンネームは『かに』だった。当時の最推しの星座が蟹座だったからだ。 今現在の状況で『かに』はないな。意味不明すぎる。 というか、異世界なので十二星座は存在しない。あるのは違った星座で、蟹座も夜空にないのである。さびしい。 なお英雄叙事詩の一番のお気に入りキャラは、王子の兄である王太子。渋くてかっこいい大人の男なのよ! それはともかく、あれこれ考えた末に私は言った。「フェリクス、でお願いいたします」 フェリクスとは『幸運』を意味する。 フェリシアの名前自体がフェリクスの女性形である。 フェリシアという名前は本当のお母さんがつけてくれた。私の今の名前であり、同時に小さいフェリシアの名でもある。 皇太子や家族にバレるのは嫌だけれど、フェリシアの名前自体は大事にしたい。 だから、フェリクス。「分かりました。では、作者は『フェリクス』にしましょう。性別不明でミステリアスな雰囲気になりますね」 本屋はうなずいてくれた。「斬新で大人気の物語の作者が、正体不明の謎めいた人物。覆面作家とでも言いましょうか。ますます人気が出ますよ!」「ふふっ。これはしっかりと続編を書かないといけませんね」 私の物語を待ってくれている人が大勢いるなんて、作者冥利に尽きる。『フェリシア。ありがとね』 私の心の奥で、小さいフェリシアの声がする。『今回はつい、出しゃばっちゃったけど。これからもあなたの心の片隅で、萌えをもらいながら見守っているから』『いつでも出しゃばっていいよ。あなたあっての私だもん』 私が返事をすると、小さいフェリシアが笑った気配がした。「それではフェリシアさん。僕は帝都に戻ります」 本屋の声で我に返る。「ええ。道中のご無事をお祈りします」 遠ざかる本屋の背中を見送って、私は改めてペンを握る手に力を込めたのだった。

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